folks‐lore 05/06



365-d


それは、バスケ部の部長だった。


俺はそれを思い出して、げんなりする。


色々な人間が頭に浮かんでは消えて、たまたまあいつがの顔を思い浮かべた瞬間におまじないが完成してしまった。


別に相手が誰でもいいが、男かよ…。


というか、そもそもあとで会う約束がある奴と、わざわざふたりっきりで閉じ込められるなんて馬鹿みたいだ。


ま、自業自得なんだが…。


このおまじないが不発に終わってくれと、俺は心の底から願った。


「よう、岡崎。奇遇だな」


…悪魔に魂を売ったかのようによく当たるおまじないだった…。


声をかけられて顔を上げると、バスケ部部長が片手をあげて立っていた。


「…よぉ」


「どうしたんだよ、一体。すげぇげんなりした顔だぞ」


「いろいろあって」


「ふぅん…?」


不思議そうに鼻を鳴らすが、すぐに表情を変える。


「ま、いいや。それじゃ、バスケやろうぜ」


「ああ…。グラウンドの、バスケットコートだろ?」


「そうだ。まずはボールを取りに行こうぜ」


「…どこに?」


俺の問いに、バスケ部部長は不思議そうな顔をした。


「そんなの、決まってるだろ」


その口調は、恐ろしく迷いないものだった。


「体育倉庫だよ」



…。



体育倉庫の扉を開ける。


中は薄暗く、埃っぽい。


体育用具が雑多に詰め込まれたり、積み上げられたりしていた。


周囲を見回す俺を余所に、部長はごそごそとあたりを探る。


「サッカーボールはあるけど、バスケボールがねぇな。岡崎、そっちを探してくれ」


「ああ」


言われるがまま、指差されたボールかごを漁る。


ここに閉じ込められてしまったら、バスケをやる時間は多少なりとも失われてしまうだろう。


そう思うと、少し相手に申し訳ない気持ちがした。


「おっ、あったあった」


部長が声を上げる。


くたびれたボールだが、ちゃんと空気は入っているようだ。


指の先にのせて、くるくると回してみせる。


「じゃ、行こうぜ」


「あ、ああ…」


男が気軽な歩調で出口に向かう。


俺は立ち尽くしてその後姿を見守った。


ガコン…。


「ん?」


引き戸に手をかけた部長が、開かない扉を見て声を上げた。


そして、何度か開けようと試してみるが、びくともしない。


叩いてみたりしても、特に外からの応答もなかった。


一通りそんなことをやって見せて、困った顔を俺に向ける。


「なんかよくわからないけど、扉が開かない」


「そ、そうか」


俺のせいだが。


「まいったな…」


困った様子で、頭に手を当てた。


「悪い」


「いや、いいけど」


つい詫びてしまうが、何も知らない相手は俺に不思議そうな目を向けた。


だが、すぐに思い直したようにあたりを探り始める。


出入り口の他に小さな窓があるが、そこには鉄格子がはめられていた。


中でボールを投げたりして、窓が割れないようにという配慮なのだろうか。


今の自分たちの身からしてみれば、ありがた迷惑もいいところだ。


部長は鉄格子が外せるかいじってみたり、窓を開けてみて周囲に人がいるかを確認したりしている。


今日を逃せば、お互い、一緒にバスケをやる機会はないかもしれない。今日のように、お互いの予定がたまたま重なることはそうないし、もうないかもしれない。


そう思うと、なんとか急いで出たいところだが…。


そんなことを考えていて、ふと資料室の会話を思い出す。


そういえば、このおまじないには解呪の呪文があった。


『まずは、お尻を出してください。そして、ノロイナンテヘノヘノカッパ、と心の中で三回唱えてください』


宮沢の言葉を思い出す。


俺はさっさと解呪をしてしまおうと決めた。こんなところにずっといても、時間の無駄だ。


カチャカチャ…


俺はズボンのベルトを外す。


「岡崎、どうした?」


「ああ、ちょっとな」


部長が不思議そうに俺を見ていた。


とはいえ、おまじないのことを一から丁寧に説明するのは面倒だ。さっさとおまじないを解いてしまって、外に出よう。


「ああ、なるほどな」


しかし、何故かバスケ部部長の男は俺の様子を見て得心したような表情になった。


カチャカチャ…


そして、すぐに自分のズボンを脱ぎ始める。


「えっと…なにしてんの?」


俺と同じようなことをするその姿に、首を傾げるしかない。


「いや、よかったよ」


「は?」


「岡崎。おまえも、そういうつもりだったんだな」


「は??」


相手が、何を言いたいのかよくわからなかった。


ぽかんとしているその間、男はズボンを脱ぎ終わり上着も脱ぎ始める。


「実は、ずっと狙ってたんだ、おまえのこと」


「え…?」


ぞわり、と背中から這い登るような悪寒。


男が、ちらりと横目で俺を見た。


口元が怪しく歪んでいた。


俺は思わず、自分の尻を押さえる。


「まさか、両想いだなんて思ってなかったからな…。だから、すげぇ嬉しいよ、岡崎」


「ち、ちが、俺はそんなんじゃ…」


すぽぽぽーーーん! とすべての衣類を脱ぎ捨てた男が、俺の元へと飛び掛ってきた。


「岡崎、愛してるぞーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」


「アッーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」









-BAD END-






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