400
殺戮ショーが終わった。
俺はかたく塞いでいた耳から手をどける。
途中で、『早苗…早苗ーーーーっ!』とか『ぷひぷひぷひ…!』などという悲鳴が聞こえていたような気もするが…。
周囲を見渡すと、死屍累々。
多くの生徒がへたり込み、あるいは倒れていた。
「それでは、二曲目」
そんな情景をものともせずに、ことみは言う。
これでもまだ、殺したりないらしい。
演奏が始まる。
ぐわあああぁぁ〜〜〜〜〜ん…
たん、たん、たん。
ぐぉぉおおお〜〜〜〜ん…
ちーん。
再び始まる阿鼻叫喚。
集まった観客たちは、もはや逃げることすらできないような様子だった。
…。
「それでは、最後の曲になりました」
二曲目が終わり、精も根も尽き果てた観客に向かって、ことみはそう言う。
破壊神めいた姿だった。
「私が一番好きな曲です。どうぞ、聞いてください」
観客たちが身構える。慌てて耳栓を耳につめる。
…だが。
その旋律は、先ほどまでの現代音楽ではなかった。
単純な、練習曲のような調べ。
少したどたどしいような感じが残っているが、それでも胸に沁みる音色。
…少し懐かしいような、曲。
他の連中も殺人音波ではないことに気付いたのか、耳栓を取り外したりしてその音楽に耳をすませた。
今はじめて、この場所に穏やかな空気が流れる。
俺は目を閉じて、耳をすませる。
なんだか、この曲が聴けたならば、先ほどのまでの音波攻撃を耐えた甲斐がある、と思った。
…。
曲が終わる。
「ご静聴、ありがとうございますなの」
そう言うと、ぺこりと深く、礼をした。
ぱちぱちと拍手を聞いて、嬉し恥ずかしというような感じではにかむ。
俺はぼんやりと、そんなことみの姿を見守っていた。
懐かしい。
なぜか、深く、そう思いながら。
401
前庭に集まっていた客たちは、回復するとそれぞれ散っていく。
無茶苦茶な目に遭ったのは事実だが、今までは住む世界が違うかのようだった天才少女の新しい側面をみる羽目になったのも事実で、何人かの女子生徒がことみ
を囲んで楽しそうに話をしていたりする。ことみも、照れくさそうな感じながらも、それに応対しているようだ。
…いつの間にか、部員の間だけかと思っていた人間関係がじわじわと周囲に広がっているような気がする。
クラスメートたちにも。あるいは三井とか、また別のクラスの奴にも。
少人数で固まって、内へ内へとこもる小さな輪では、ありえなかったことだ。
手を広げて、外に手を伸ばして行って。
そうして、世界は広がる。
それは少しずつでも。傷つくことがあっても。
何かをやってみることは、それだけで何もなさないことよりは価値があるはずだ。
いつの間にか、俺はそう思えるようになっていた。
こんな心境の変化は、一体誰のおかげなのだろうか。
…そんなことを考えながらぼんやりとしていると、仁科が隣にやってきていた。
「あの、お疲れ様でした」
「ああ、まあな」
俺たちは、互いに苦笑を浮かべあう。
「おまえからして、あの演奏は何点くらいだ?」
冗談でそう聞くと、仁科は困った顔になった。そりゃそうだろうな。
「えぇと…楽しそうでしたから、とてもよかったと思います」
「ま、本人はな…」
「でも、最後の曲はとてもよかったです」
そうフォローを入れる。
「ああ、たしかにな」
それは、俺もそう思う。
雑談していると、さっきの演奏を聞いてか前庭に何人かの教師がやってくる。
多分、何か大問題でも起こったのかと思ったのだろう。最初の方の曲は、完全に殺しにかかっていたし。
元々ここで演奏をするのは話を通しているし、最初からこの演奏に同席していた教師の姿もあった。実際、泡を食って飛び込んできた教師も他の同僚に話を聞い
て、納得したように校舎に戻っていく。騒ぎにはなったかもしれないが、特に問題になるということもないだろう。
「そろそろ、部活に行きましょうか?」
「そうだな…」
「おっと、ちょっと待ちな」
足を踏み出すと、いつの間にか俺たちの前にオッサンが立ちはだかっていた。
「小僧、久しぶりだな」
「…」
この人の頭からは、さっき会ったことや、昨日会ったことは忘れ去られているのだろうか。
「ちょっと顔を貸しな」
「は?」
「おまえに話がある」
「話?」
「ああ」
俺たちは視線を合わせる。オッサンの視線は、真剣なものだった。
「…あの、私はどうしましょうか?」
隣で仁科が置いてけぼりを食らったような表情で言う。
オッサンはそれを見て少し笑った。
「おっと悪い。あんたはいい。部活、死ぬ気で行って来いっ」
「はぁ…」
仁科は曖昧に頷いて、去っていく。
死ぬ気で部活…? という感じで途中で首をかしげていて、ちょっと面白い後姿だった。
「イチャイチャしているところ、邪魔したな」
「いや、いいけど…」
「今度はこの俺とイチャイチャできるぜっ。どうだ、うれしいだろっ」
「最悪っす」
「てめぇ、どんだけ正直者なんだよ…」
生意気なガキだぜ、とオッサンは小さく言う。
数えるほどしか会っていない関係なのだが、きついジョークも言い合える仲な俺たちだった。
ま、前回も大体そんな感じだったけど…。
「で、何の話?」
「他の奴には聞かれたくない話だ。ここじゃ人が多すぎるな…小僧、こっちに来い」
「はぁ…」
前庭の隅の方に連れて行かれる…。
「…で、何?」
「話っていうのは他でもねぇ。昨日のことだよ」
「ああ…」
俺は思い出す。
昨日、渚の実家で物置を探っていた時のことだ。
期せずして、オッサンの昔の演劇の思い出が出てきてしまった。
それについて、俺たちは詳しい話をしていない。
適当にフォローを入れておいたものの、それで流して終わりというわけにはいかないだろう。
「あのことか」
「ああ。てめぇが渚のオマルに興奮していた話だよ…!」
「どの話だよっ!?」
「テメェがド変態だって話だよ、コラァァーーーーッ!!」
「…おいっ、何を騒いどるっ!」
喧嘩していると、聞きとがめた教師がこっちに寄ってくる。
「岡崎、またおまえかっ。というか、そっちは部外者かっ!?」
「やべっ」
「ちっ…逃げるぞ、小僧っ!」
「おい、待てっ!」
教師の静止の声を振り切って、俺とオッサンはその場を離れた。
…。
グラウンドの片隅まで逃げる。
教師は途中まで追いかけてきたようだったが、姿が見えなくなった。
追跡を諦めてくれたならいいが。というか、どうも俺の素性はバレたみたいだけど、後で面倒なことにならないだろうか。
「…来てないか?」
「ああ、みたいだな…」
俺たちは木の陰に隠れて、周囲をうかがう。
部活をする生徒は多くいるが、近くに教師の姿はなかった。
「酷い目にあったな…」
「あんたのせいだけどな」
「なんだとぅ?」
オッサンは不機嫌な顔で俺を見るが、こちらとしては見慣れた表情でなんとも思わない。
どこ吹く風な俺の様子を見てか、それ以上グチグチと何か言うことはなかった。
「で、何の話なんだ?」
「ああ、昨日の話だよ…」
「オマルじゃないよな?」
「あん? オマル? テメェは何の話をしている?」
「…」
何を言っているんだ、この人は…。
思いつきで物を言っているのがバレバレだ。
「あの時見つけた、演劇のビデオの話だよ…」
「ああ…」
「昨日の今日でここに来る用事が出来たのはラッキーだったぜ…」
まあ、そうだな。
昨日はあの後結局、オッサンとは演劇の話などはしていない。俺に対して釘をさす暇すらなかった。
この人が今のところ俺をどういう風に思っているかはわからないが、とりあえず、渚に対してこの人たちの過去をペラペラ喋られたらたまったものではないだろ
う。
これから交わすことになるだろう話を思い、俺は心を落ち着ける。
「これから話すことは、渚には言うな。ああ、あと、早苗にもな。蒸し返したくない」
「ああ…」
「む…」
オッサンがそこまで言って、思いついたような顔になる。
「茶がほしいな」
「は?」
「おーい、そこのアンタっ、ちょっと茶を持ってきてくれっ!」
唐突に木陰から顔を出して、通りかかった女子生徒に声をかけた!
「…きゃあああぁぁぁっ!!」
通りかかった生徒は、突然物陰から顔を出した目つきの悪いオッサン(部外者)の姿を見て、すかさず悲鳴を上げた。
それを聞いた他の人間がこちらに向かってくる。
「…やべっ。おい、小僧、逃げるぞっ」
「あんた頭おかしいだろっ、絶対っ!」
「なんだと、コラアアァァーーーーッ!」
俺たちは全力ダッシュで逃げながら喧嘩をし始める…。
…。
「はぁ、はぁ…エライ目にあったぜ…」
「あんたのせいでな…」
荒く息をつきながら旧校舎の脇の辺りに身を隠す。
いつの間にか、何人かの教師が周囲を探し回っている…。
「こっちに来たと思ったんだがな」
「校舎内は他の人が探していますし、我々は二手に分かれましょう」
「そうだな」
やべ…。
ひとりがこちらに向かってくる。
このままでは、見つかりそうだ…。
いや、部外者はオッサンひとりだから見捨ててもいいんだけど、さすがにそれは気が引ける。
オッサンはどうでもいいけれど(むしろいい気味だ)、親がしょっ引かれる姿を見たら渚がどれだけ微妙な顔をするだろうか。
(…おいオッサン、こっちだ)
(どこかに逃げ道でもあるのかよっ)
(ああ、ひとつだけ心当たりがある…)
そう、ひとつだけ心当たりがある…。
そう、ひとつ。
ここは旧校舎の陰の辺り。この場所から、旧校舎片隅の教室は近い。
そこは、いつも窓から飛び込んでくる来客があるから、鍵などは閉まっていないはずだ…。
俺はオッサンを誘って身を隠して進んでいく。
旧校舎の一番端。資料室へ向かって。
…。
「…いらっしゃいませっ」
突然窓から飛び込んできた俺とオッサンの姿を見て、宮沢は目を白黒とさせたが、すぐに気を取り直してにっこり笑う。
さっきまで演奏会にいたのに、ここにいるというのは意外だった。だが正直助かる。
「どうかされたんですか?」
「追われているんだ。ちょっと隠れさせてくれ」
「なるほど、わかりました」
宮沢は慣れた手つきで(不良どもにも同じように対応しているのだろう)机の下に入るように示す。
「悪いな」
「サンキュー、嬢ちゃん。後で小遣い百万円ぐらいやろう」
「オッサン、気前良すぎ」
馬鹿話をしながら、机の下にもぐりこむ。
そして、そのすぐ後ぐらいに。
「おい、君っ」
資料室の外から教師が声をかける。
「はい、わたしでしょうか?」
少しの動揺も感じさせない声で、宮沢が答えた。
「今、不審者が校内にいるという話なんだが、そんな人見なかった?」
俺は机の下で嫌がらせにオッサンを指差してやる。オッサンは苦々しげな顔になってその指をぐっと曲げてこっちに向けてくる。俺は不審者ではない。
「いえ、見ていないですねー。特に変な話し声も聞いていません」
「そうか…。ん? 君、二年の宮沢か」
「はい」
「追っている片割れが三年の岡崎なんだけど、あいつも見ていない?」
「はい。さっきまで三年の一ノ瀬ことみさんのヴァイオリンのコンサートをやっていましたから、そのお手伝いをしているのだと思いますよ」
「そうか…? 片割れが岡崎だって話なんだがなぁ」
宮沢のセリフに、自信なさそうな様子になる。よし、宮沢、ナイスフォローだ。
とはいえ、さっさとどこかに行ってくれればいいものを、会話が始まってしまった。
俺はこっそり机の下から様子をうかがう。
宮沢が立ち上がって、こちらに背を向けて外にいる教師と会話をしているようだった。
下から後姿を見上げる形だから、すらりと伸びた宮沢の太ももが眩しい。
もう少し自分が這い蹲るか彼女がかがむ格好をとれば、なんとか見えそうなんだが…。
…って、何を考えているんだ、俺は。頭を振るって煩悩を振り払う。
「君、あいつと同じ部活なんだろう?」
「はい、同じ歌劇部です」
「最近はまともになったって聞いたけど、そうなの?」
「朋也さんは、とっても優しいですし、素敵な方だと思いますよ」
宮沢の暖かい言葉が胸に沁みる。
「そう? ただの、アホだと思うが…」
教師の冷たい言葉が胸に沁みる…!
「ま、いいや。もし岡崎に迷惑をかけられるようだったら、すぐに教師に言いなさい」
「はは、もしそんなことがあれば、そうしますね」
「あと、もし部外者を見つけたらすぐに言いなさい。いいね?」
「はい、わかりました」
…教師の去っていく気配がする。
なんとか、難所を切り抜けたようだった。
「もう大丈夫ですよ」
宮沢にそう言われて、机の下から出る。
「酷い目にあったな…」
「あんたのせいだ、あんたの」
俺はすかさずツッコミを入れる。
「なんだとぅ?」
宮沢はそんな様子をニコニコと笑いながら見ていた。
「だが、ちょうどいい場所に着いたな。ここでなら、落ち着いて話ができそうだ」
「ま、外よりはな…」
俺たちは席につく。
「よろしければ、お茶を入れますねっ。ちょうど、準備が出来ているので」
「おっ、サンキュー」
すかさず、宮沢が茶を入れてくれる。
ティーバッグの緑茶だから、すぐに出てくる。
俺たちはそれを一口、のむ。
「ふぅ、落ち着くなぁ。日本人はやっぱり茶だぜ」
「誰かさんのせいで走り回ったから、ちょうど喉も渇いてるしな」
「うるせっ」
「喧嘩はダメですよ」
宮沢がやんわりと言う。それだけで場が少し落ち着いた。
オッサンは湯呑みを机に置くと、俺に向き直る。
「それじゃ、さっきの話の続きだ…」
「ああ…」
「いいか、この話は渚にも早苗にも内緒だぞ。もちろん、他の連中にも秘密だ」
「そこに宮沢がいるけど」
「あ、はい」
「…そうだったーーーっ!」
オッサンがイスに座りながら海老反りになって頭を抱えた。器用な体勢をする人だ。
「ちっ、あまりにもこの部屋の空気に馴染んでて、うっかり見過ごしちまったぜ…」
うっかりしすぎだ。
「あのー、よろしければ、少し席を外しましょうか?」
「いや、追い出すみたいで悪いからな。小僧、別の場所を探すぞ」
「いえいえ、大丈夫ですよ。少し出かけてきますね」
「宮沢、おまえ、誰かと待ち合わせとかじゃないのか?」
ことみのコンサートが合ってすぐ後なのに、ここにいるのは用事があるからなのだろう。
資料室で茶を出せる態勢で待っていたのだから、何か約束がありそうだが。
「まだ時間があるので、しばらくは大丈夫です。それに、ちょうど部活の様子を見に行こうと思っていたところでしたから」
安心させるように笑う。
そのまますぐさま、部屋の戸に手をかける。どうやら、気を遣わせてしまったようだった。
「悪い、宮沢」
「この礼は、両手一杯の早苗のパンで返すぜっ」
「あんた悪魔だ」
「どうぞお気になさらず。それでは、失礼しますね」
宮沢はそう言うと、出て行った。
しばらくの間、資料室の部屋の中に宮沢の名残の空気が流れ、やがて消えた。
気の利いた奴は、去り際も爽やかだな。
「さすがに、礼をしないといけねぇな…」
オッサンはその去っていったドアを見て呟く。
「早苗さんのパンとかはなしだからな」
「そんな罰ゲームにはしねぇよ」
「…」
早苗さんのパンを罰ゲームと言い切った…。
まあ、大賛成ではあるけれど。
「小僧」
「ああ」
オッサンが向き直る。真剣な表情だった。俺も心を切り替える。
「先に聞いておくが、昨日おまえが見つけたものについて、渚には言ってないな?」
「ああ…」
「そうか…悪いな」
「いや…」
「おまえが見たもの…あれはな」
オッサンが、少し遠い目をする。
自然、胸ポケットに手をやってタバコを取り出す素振りを見せるが、すぐにここが学校だと気付いたのだろう、顔をしかめて一服するのを諦めた。
「俺と早苗の過去だ。夢を追っていた頃の、な」
「…」
オッサンの夢と、早苗さんの夢。かつてのふたりの夢。
「知っているだろう、渚は小さい頃に命を落としかけた」
「いや…」
俺は、そう言う。
渚から、直接その話を聞いたことはない。今も、そして昔も。
「なんだ、聞いていないのか」
「体が弱いっていうのは、知ってる」
「ああ…。あの日以来な…」
オッサンは少し、遠い目をした。
…ぷぅ。
「すまん、屁をこいてしまった」
「…」
俺はしばらく、遠い目をした。
「とにかくだ、あいつはいちど、死ぬかもしれないような状態に陥った」
「…」
…それから。
オッサンは、しばらく昔の話をした。
かつて、オッサンと早苗さんが夢を追っていて、小さな頃の渚は一人でいることが多かった。
だが、ある出来事があって彼女は命を落としかけて、二人の心は変わった。
一人娘を大切に育てていこうと決めたのだった。
それは、多忙な今の自分の夢と折り合いをつけられるものではなかった。
だから、傍で働くことのできる仕事を探して、今の古河パンが生まれた。
…だが、そんな話をしてしまうと、渚が気に病むことは明らかだ。だから、昔の思い出を物置にしまった。
ふたりの夢は、別の夢になった。ふたりにとっての夢は、渚自身のこととなった。
…。
「ま、そんな話だ」
オッサンはそれをなんでもないことのように語る。
俺はそれを、黙りこくって聞いていた。
「人には、言うなよ」
「ああ…言わない」
オッサンは俺の顔を少し見て、立ち上がった。
念押しをすることもない。それは、多少は信頼してくれているからだろうか。
「じゃ、俺は帰るとするか」
「まだ教師が見回ってるかもしれないけど、大丈夫なのか?」
「はっ、なめんなよ」
オッサンは俺を振り返って不敵に笑った。
「ゾリオンで鍛えた俺にかかりゃぁ、たかが素人の教師なんて敵じゃねぇ」
「…」
全然誇れるようなセリフでもないと思うんだが…。
「あばよっ」
俺がなにか言うより早く、オッサンは窓から身を躍らせて走り去って行った。
それを見送る。
そして。
残された俺は、それぞれの思惑を頭の中に思い描いた。
渚に、過去を知られないようにしているオッサンと早苗さん。
対して渚は、たしかずっと彼らの過去についてぼんやりとした疑惑を抱えてきていたはずだ。
かつては、その疑惑が探し物をしている時の違和感や、こそこそしている俺とオッサンの態度から噴出した。
…渚が真実を知るべきか、否か。俺は未だに、そのどちらが正解なのかとはっきり言うことはできない。俺は全ての可能性
について知り尽くすことなどはできないのだ。
それでも、俺は、ひとり取り残された資料室でこれまでのこととこれからのことを考え込んでしまうのだった。